東京地方裁判所 平成4年(ワ)2300号 判決 1994年2月24日
原告
株式会社甲子電研
右代表者代表取締役
白川雅奇
原告
白川雅奇
右両名訴訟代理人弁護士
安達一彦
被告
筒居龍史
右訴訟代理人弁護士
田島恒子
主文
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告株式会社甲子電研に対し金七六二万円、原告白川雅奇に対し金二〇〇万円及びこれらに対する平成四年二月二二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、原告株式会社甲子電研(以下「原告会社」という。)のもと従業員であった被告が無断で原告会社の企業情報を同業他社に売り、また、競業会社を設立した違法行為をしたとして、原告らが損害(被告に支払った賞与・昇給賃金分等、逸失利益、慰謝料)の賠償を求めた事案である。
二 争いのない事実
1 原告会社は、電子点滅器、多極自動スイッチの製造販売及び電気材の製造、販売等を主たる目的とする会社であり、原告白川雅奇(以下「原告白川」という。)は、原告会社の代表取締役である。
被告は、昭和五九年一月五日に原告会社に入社し、電光ニュース看板の営業に従事してきた従業員であり、平成三年八月三一日に退職した。被告の妻である筒居静江(以下「静江」という。)は、ネオン広告塔、屋内外広告看板等に使用する電気電子部品及び資材の販売を主たる目的として同年四月一日に設立された関越電材有限会社(以下「関越電材」という。)の代表取締役であり、被告はその取締役である。
2 原告会社の電光ニュース看板事業の営業活動の具体的内容は、次のとおりである。
(一) 電光ニュース看板のスポンサーの勧誘と宣伝活動
(二) 原告会社の電光ニュース看板事業の代理店として、株式会社平和通信等が存在したが、代理店を指導し、代理店の活動を側面から援助し、かつ、代理店の必要とする文書、資料等を整える作業
(三) 顧客の要望に対処するため、技術部と協力してより効果的な電光ニュース看板の表示方法を研究(具体的には文字のデザイン、文字の流れる早さ等の研究)し、他社の情報を収集して電光ニュース看板事業の発展に寄与する活動
3 被告が原告会社に勤務中、被告名義及び静江名義の太陽神戸三井銀行坂戸支店の各普通預金口座に、次の入金があった。
(一) 被告名義
日時 金額 振込人
昭和六三年一二月一二日 五万四三五〇円 株式会社相馬電装
平成元年一月一〇日 五万九一〇〇円 右同
同年一月二三日 四万九二〇〇円 右同
同年三月六日 一一万五一七〇円 右同
同年四月六日 九万九一七六円 右同
同年四月一八日 二〇万円 株式会社平和通信
同年五月九日 一一万四〇〇〇円 株式会社相馬電装
同年七月一九日 二〇万円 株式会社平和通信
同年八月八日 一万七〇〇〇円 日本ビービーエス
平成二年一一月二日 三〇万円 株式会社サン工芸
(二) 静江名義
日時 金額 振込人
平成三年一月三〇日 一〇〇万円 株式会社サン工芸
同年六月六日 三〇〇万円 曽根電材株式会社
三 争点
1 被告は、原告会社に在職中、情報提供料として前記一覧表のとおりの金員を継続的に受領して原告会社の企業情報を取引先及び同業他社に提供したか。
2 被告は、原告会社に在職中、関越電材を設立する計画を立てたか。
3 原告らの損害の有無・額
四 当事者の主張
1 原告ら
(一) 株式会社相馬電装(以下「相馬電装」という。)は、原告会社の電光ニュース看板設置工事やネオン工事を受注する会社であったが、被告から交際費(具体的には、建物新築現場の屋上にネオン塔を建てる際に現場監督等に飲酒等で接待するための費用)に必要といわれるままに、前記入金一覧表のとおり被告に対し送金したものであるが、被告はこれを受領して自己の遊興費に費消した。原告会社は、税務署の調査により被告の右行為が相馬電装に露見することとなり、同社に対する信用を毀損することとなった。
(二) 株式会社サン工芸(以下「サン工芸」という。現商号は株式会社サンリックスという。)と原告会社は険悪な関係にあり、被告はこれを十分知っていた。すなわち、原告会社は、サン工芸及び元原告会社技術課長田中稔彦を被告として昭和五八年九月三〇日に損害賠償請求訴訟を提起したが、訴訟提起の原因は、サン工芸が田中稔彦に原告会社から不法に設計資料等を窃取させ、同人が原告会社から提供を受けていた技術上の知識を悪用して、原告会社の電光ニュース看板のシステムと全く同一のシステム製造販売を企図したことに基づくものであった。右事件は、昭和五八年一一月二四日、サン工芸が原告会社に和解金八〇〇万円を支払うこと、サン工芸が今後田中稔彦と電光ニュース板に関する取引をしないとの内容の和解により終了した。ところが、サン工芸は、それ以後も田中稔彦との取引を続けたので、原告会社がこれに気付いているかどうかの情報が欲しかったこと及び原告会社の技術水準や発注先の情報も欲しかったことから、被告に近づいたものである。サン工芸は、田中稔彦の場合と同様、原告会社の従業員を利用して自社の営業拡大等を企図したものである。そして、被告は、サン工芸の思惑及び従来の原告会社との険悪な関係を十分知っていながら、原告会社の発注先の内容、技術水準の内容、原告会社がサン工芸に対する対応をどう考えているかの各内容の情報を提供し、かつ原告会社の顧客をサン工芸に紹介する等営業妨害行為を行なったものである。その情報提供の対価として、被告はサン工芸から前記入金一覧表のとおり平成二年一一月二日に被告名義で三〇万円、平成三年一月三〇日に静江名義で一〇〇万円を受領した。
(三) 原告会社の子会社である株式会社アート電材と曽根電材(以下「曽根電材」という。)とは東北六県を商圏とする同業他社であるところ、被告は、曽根電材に発注先や原告会社の技術水準を提供する対価として同社から前記入金一覧表のとおり平成三年六月六日三〇〇万円の交付を受けているものである。
(四) 被告は、静江名義の送金関係につき、会社設立費用のための借用と主張するが、かような関係にある曽根電材やサン工芸が何らの代償を要求せずに、無担保で金員を貸し付けるはずがない。しかも、被告は関越電材を平成三年四月一日設立しているから、被告が会社の設立費用が必要なのは、平成三年四月一日以前のはずであるが、曽根電材より三〇〇万円が送金されたのは、平成三年六月六日である。
(五) 被告の不法行為により原告らは次の損害を蒙った。
(1) 原告会社の損害
(a) 給料増額による損害 二三七万円
原告会社は、被告が不法行為を継続しているのを知らなかったため、昭和六二年四月に、被告を管理職に昇格し、従来の被告の基本給金二五万円を二七万円に増額し、さらに管理職手当として三万円を付加したので、被告は昭和六二年四月から三〇万五〇〇〇円の給料を受領するようになった。更に、被告会社は同年五月から平成三年六月までは基本給を三万円増額し、三三万九〇〇〇円を支払うに至った。
原告会社は被告の不法行為を認識していたならば、被告の背信行為の結果として、就業規則第三一条により減給もしくは解雇の制裁をとれたはずであり、被告の在職期間中、被告に対し減給さえ可能であったから、給料を増額しないことが可能であったし、そうしたはずである。少なくとも給料を二五万円に留め置いたはずであるので、昭和六二年四月から平成元年四月まで一ケ月当たり五万円、二五ケ月分で合計金一二五万円の、平成元年五月から平成三年六月まで一ケ月当たり八万円、一四ケ月分で合計一一二万円の損害を蒙ったといえる。
(b) 賞与支払いによる損害 四一八万円
原告会社は被告の不法行為を知らなかったため、昭和六二年に七〇万円、昭和六三年に一〇八万円、平成元年に一二〇万円、平成二年に一二〇万円以上合計四一八万円の賞与を支払い右金額の損害を蒙った。
(c) 退職金支払いによる損害三七万円
原告会社は被告に対し退職金として三七万円を支払っているが、原告会社は被告の不法行為を知っていたならば、被告を懲戒解雇にし、退職金三七万円を支払わなかったので、右支払いをしたことに基づき三七万円の損害を蒙った。
(d) 弁護士費用 七〇万円
原告会社は、訴訟代理人に委任し、本件訴訟を提起することを余儀なくされ、報酬として七〇万円を支払う約定をした。
(e) 逸失利益金 五〇〇万円
原告会社は、有限会社えのきはら(以下「えのきはら」という。)との間で、昭和六二年二月頃、電光ニュース板工事請負契約の締結直前の段階まで話を煮詰めた。右当事者間の折衝は、昭和六二年二月頃、倉敷市における「えのきはら」の事務所でされたが、被告はサン工芸代表取締役西原一夫(以下「西原」という。)に、原告会社と「えのきはら」との間の折衝内容を漏らし、サン工芸に対し、「えのきはら」と契約をするよう勧めた。
そこで、昭和六二年三月二五日頃、サン工芸は「えのきはら」との間で請負金額を金二五〇〇万円とする、電光ニュース板工事請負契約を締結し、右工事を同年六月三〇日頃完成させ、その頃、工事代金二五〇〇万円の完済を受けた。
ところで、電光ニュース板の請負工事の利益率は少なくとも二〇パーセント存するので、原告会社は、被告及びサン工芸の不法行為により請負工事代金二五〇〇万円の二〇パーセントに相当する五〇〇万円の逸失利益の損失を蒙ったものである。
(f) 電光ニュース看板事業継続による損害 一三八〇万四二二六円
原告会社は、昭和五九年五月以降専ら被告を電光ニュース板事業の責任者として事業展開をしていた。ところで、電光ニュース板事業は、昭和六〇年五月以降被告が退職する平成三年八月までの間、毎年赤字を計上したが、原告会社は、被告が会社のために誠心誠意努力しているものと信じ、電光ニュース板事業を継続することとしたものである。
仮に、原告らが被告による背信行為を平成元年五月に把握した場合、原告会社は被告を解職するか電光ニュース板事業を中断、もしくは改善の努力をしていたはずである。原告会社の右措置により、同社電光ニュース看板事業の平成元年一月五日から平成二年四月期の九五二万〇〇九七円、平成二年五月から平成三年四月期の一七九万七七二五円、同年五月から同年八月までの二四八万六四〇四円、以上合計一三八〇万四二二六円の損失を阻止することができたはずである。
(2) 原告白川の損害
原告白川は原告会社代表取締役であるが、被告を見込んで昭和五九年一月五日被告を原告会社に入社させ、昭和六二年四月には被告を管理職にし、被告を愛情をもって処遇してきたにもかかわらず、被告の不法行為により甚だしい精神的苦痛を蒙ったが、右精神的苦痛に対する慰藉料は二〇〇万円を認めるのが相当である。
(六) よって、被告に対し、原告会社は(五)(1)(a)ないし(f)の損害金のうち七六二万円の、原告白川は(五)(2)の損害金二〇〇万円の各支払いを求める。
2 被告
(一) 株式会社相馬電装から被告に入金された経緯
被告は原告会社の社員として西那須野屋上ネオン工事七八〇万円を常藤から受注した。その施工工事は相馬電装にあたらせた(この下請負工事業者は原告白川の指示によるものであった。)。この工事受注によって、人的関係が広がって、同じく常藤から平成元年三月総合案内看板工事一七五万円を受注、同年四月テナント店舗ネオン工事三二〇万円を受注するに至った。被告は原告会社に対し、これらの工事を受注するには交際接待費が必要だから支出するよう求めたが、拒否されたため、被告はやむを得ず施工工事会社相馬電装に交際費を支出してもらったものである。接待したのは主として小田急建設の従業員、工事を紹介した者、地元の不動産屋等である。ある工事を受注するには工事関係の従業員を接待しなければとても無理であって、業界の常識である。
(二) 株式会社平和通信及びサン工芸からの前記入金一覧表の入金は、被告が借金したものである。原告会社は会社のために必要な交際費等もくれないため、被告のポケットマネーで支払うことが多く、その費用のため借用したものである。
(三) 静江名義の口座に振込まれたものは、会社設立費用のため借用したのである。
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 争いのない事実及び証拠(<証拠・人証略>)を総合すれば、入金一覧表の入金に関して、次の事実が認められる。
(一) 原告白川は、昭和五九年頃、原告会社に電光ニュース広告事業部を開設することとしたが、原告会社には電光板の営業の経験者がいなかったため、その経験のある被告を入社させることとした。被告は、原告会社の取引先(静岡県富士市所在の日本美研)に勤務していたところ、原告白川に誘われ、昭和五九年一月五日、同事業部で電光ニュースのスポンサーを勧誘する仕事に従事するべく原告会社に入社した。しかし、同事業部の業績が一向に上がらなかったため、原告白川は、昭和六二年頃から、被告に対し、工事部門の看板ネオンの施工の受注業務、電光ニュースシステムの販売業務も付随して担当させるようになった。
(二) ところが、被告は、昭和六二年頃から、同僚従業員高尾洋子、徳増高志に対し、原告会社を辞めて電子機器を作って販売する会社を作らないかという話しを持ち掛けてきたが、その際に、サン工芸の西原にその資金的な援助を依頼していた。結局、右同僚らは被告の誘いに応じなかった。
ところで、サン工芸は、昭和五八年九月三〇日、原告会社から、元原告会社技術課長田中稔彦とともに、損害賠償請求訴訟を提起されたが、その請求原因は、サン工芸が田中稔彦に原告会社の設計資料等を窃取させ、同人が原告会社から提供を受けていた技術上の知識を悪用して、原告会社の電光ニュース看板のシステムと全く同一のシステム製造販売を企図したというものであった。右事件は、同年一一月二四日、サン工芸が原告会社に和解金八〇〇万円を支払うこと、サン工芸が今後田中稔彦と電光ニュース板に関する取引をしないとの内容の和解により終了した。
被告は、原告会社に入社する前の会社(日本美研)に勤務中の昭和五七年頃、サン工芸に対し、電光ニュース板の設置工事の依頼者を紹介したことが切っ掛けで、付き合いが始まったが、原告会社とサン工芸との和解の経緯を知っており、入金一覧表の入金(サン工芸分)以外に、個人的に、昭和六一、二年頃から合計二〇〇万円位の金員の交付を受けていた。
原告会社は、昭和六二年二月頃、倉敷市所在の「えのきはら」との間で、電光ニュース板工事を代金三〇〇〇万円で請負う契約の交渉を煮詰めていたところ、西原は、同年三月四日、「えのきはら」との間で、直接交渉の結果、請負金額を金二五〇〇万円とする、電光ニュース板工事請負契約を締結し、右工事を同年六月三〇日頃完成させ、工事代金二五〇〇万円の完済を受けた。
(三) 原告白川は、かつて原告会社の代理店であった曽根電材の従業員伊藤正貴から電子機器の販売業を独立して行なう相談を受け、昭和六一年二月、株式会社アート電材を設立し、同人をその東北支店長として迎えたことから、曽根電材とは、代理店契約関係が切れ、対立するようになった。
被告は、平成三年四月一日に設立された関越電材の取締役となったが、同社は、曽根電材と同じ電気材料の販売を業とし、スーパーマーケットに勤務していた静江が代表取締役となった。そして、被告は、同年六月六日に曽根電材から入金一覧表の入金(曽根電材分)のとおり静江名義の預金口座に三〇〇万円の送金を受けた。
(四) 原告会社は、原告会社の電光ニュース看板設置工事やネオン工事を受注する会社であった相馬電装に対し、昭和六三年一二月頃、屋外広告塔の設置工事の下請を依頼したが、被告はその工事現場である西那須野に出向いて担当した。その際、被告は、工事の円滑な運営のための現場の工事関係者との交際費を相馬電装に負担してもらったが、これについては原告白川に了解を受けずに独断でしたもので、被告が立替えて支払った分は、入金一覧表の入金(相馬電装分)のとおり、後日相馬電装から銀行振込によって補填されていた。
2 被告名義及び静江名義の太陽神戸三井銀行坂戸支店の各普通預金口座に入金された金員が、被告において原告会社の企業情報を取引先及び同業他社に提供した情報提供料として継続的に受領されたものであることといえるためには、まず被告が原告会社のいかなる企業情報を提供したものかが具体的に明らかになることが必要であるというべきであるが、原告白川本人尋問の結果及びその他の本件全証拠によっても、右事実を明らかにすることはできない。
却って、前記認定事実によれば、被告が相馬電装から受けた入金一覧表の入金(相馬電装分)は、原告白川の了解を得ないでした交際費の清算として交付されたものであると認められる。また、静江名義の預金口座に曽根電材から入金された三〇〇万円は、関越電材の設立に関して被告が曽根電材から援助を受けたものであるが、曽根電材がこのような便宜を図ったのはアート電材との対抗上採った措置であると推測することができるのであって、右金員の受領をもって、被告が原告会社の何らかの企業情報を曽根電材に提供したものと断定することはできない。
もっとも、サン工芸からの入金については、前記認定事実によれば、被告は、原告会社に勤務中、西原から個人的に金員の交付を受ける一方、実現はしなかったものの西原の資金援助を受け原告会社従業員を引き込んで電子機器の製造販売の会社を設立しようとしたものであって、西原との付き合いに気を配るべき立場にありながら、従業員としての節度に欠ける行動があったものということができる。被告がサン工芸から受けた金員は、被告名義及び静江名義の入金一覧表の入金を含めて、合計三〇〇万円を超える多額であり、原告らが西原との過去の経緯から被告の背任行為を疑うのは無理からぬところであるが、(人証略)及び被告本人尋問の結果によれば、被告は、右金員を、西原の意図がどうであったかは別として、日本美研に勤務中にサン工芸に対して顧客を紹介したことの謝礼を受ける気持ちもあって受領していたことが認められる。また、前記認定事実によれば、西原は、原告会社が獲得しようとしていた「えのきはら」の電光ニュース板工事の存在を察知し、「えのきはら」と直接交渉の結果、原告会社の予定代金より安い価格で右工事を受注したものと認められるが、西原が「えのきはら」の電光ニュース板工事の存在をいつどこからどのように察知したのかは、(人証略)によっても必ずしも明らかとならず、被告が何らかの関与をしたのではないかとの不審が残るものの、それ以上に、被告が原告会社と「えのきはら」との契約交渉内容を西原に教えたことを認めるに足りる確たる証拠はない。
なお、被告は、入金一覧表の入金のうち平和通信分は、平和通信からの借入れであると主張しながら、同本人尋問においては、平和通信の取引先のために個人的に用立てた金員の返済を受けたものであると供述し、右金員の趣旨が明らかではないが、いずれにしても、これを対価として被告が平和通信に対し原告会社の企業情報を提供したことを認めるに足りる証拠はない。
3 以上によれば、争点1に関する原告の主張は理由がない。
二 争点2について
1 前記一1の認定事実及び証拠(<証拠・人証略>)によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 原告会社は、被告を採用して新たに電光ニュース広告事業を始めたが、同事業部の業績は一向に上がらずに平成三年四月には累積三〇〇〇万円以上の損金を計上した。
(二) そこで、被告は、昭和六二年頃から、原告会社を辞めたいと考えるようになったが、その機会がなく勤務を続けていたところ、平成三年三月頃、原告会社が電光ニュース広告事業から撤退することを知り、この際、ネオン広告塔、屋内外広告看板等に使用する電気電子部品及び資材の販売を主たる目的とする会社を設立することを決意した。しかし、当時、被告は、原告会社に在職中のため、自ら新会社の代表取締役になることはせず、スーパーマーケットに勤務していた静江が代表取締役として設立された関越電材の取締役となった。
(三) 関越電材は、被告が原告会社を退職後、曽根電材及びアート電材と同じ業種で営業活動を開始した。
2 原告らは、被告が原告会社に在職中に関越電材を設立する計画を立てたことが違法である旨主張するが、右認定事実によれば、関越電材の目的は、原告会社ではなく、その子会社であるとはいえ別個独立の会社であるアート電材の目的と競合するにすぎず、しかも、被告は関越電材の取締役の地位に就いただけで、営業活動は、被告が原告会社を退職した後に行なわれているのであるから、被告が関越電材の設立に当たったことが違法であるということはできない。
三 結論
以上のとおりであるから、原告らの損害について判断するまでもなく、原告らの請求は理由がない。
(裁判長裁判官 遠藤賢治 裁判官 塩田直也 裁判官 佐々木直人)